花猫がゆく

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「作家の風景」 小島千加子

 1948年から88年にかけて「新潮」の編集者をしていた著者が、担当した作家の思い出とかを書いた本。三島由紀夫と森茉莉が載ってたので借りてみた。読んでみると、三島の最後の原稿を受け取った編集者だったのだこの人。「金閣寺」の連載当時も関わってたし、川端康成が媒酌人をした結婚式の披露パーティーにも出席している。悪趣味な(とは書かれていない。もちろん)新居の新築パーティーにも出ているし、恒例のクリスマスパーティーで丸山明宏とすれ違ったりもしている。

 まじめに読むとけっこうしんどいので、こういう本はディテールを楽しむものだと思う。

 緑が丘の旧邸の頃は、家の奥で先生の、「お母さまあ」と呼びかける声がしたり、母堂が風邪気味の先生の喉に薬を塗ろうと追いかけるのを、お手伝いさんの背を楯に逃げ廻ったり、雅びな少年の名残が、家の中まで鬱蒼とした感じの、小暗い隅に影を落としている気配があったのだが、馬込の新邸はガラリと変わった。

 いまいち文章の意味がよくつかめないけど(特に後半)、ほほえましいじゃないか。三島に関しては、結婚の経緯も含め、奥さんについて触れられたものは時々見るけど、この本読むと母親について興味がわいた。

 関係ないけど、三島はもともと猫好きだったらしい。子供の頃の家族写真では猫を抱いていたりするし。しかし奥さんが猫嫌いなため、結婚後は猫を飼えなかったとなにかで読んだことがある。
 この本でもちょっとだけ猫の話が出てくる。

 引っ越して間もなく、
「猫を同じ敷地内の両親の許に置くことにした」と言われた。猫キチほどではないが猫好きである。
「猫も急に金ピカの洋風ではマゴつきますか。爪も磨げずに滑ったり……」
「いや、女房がいやがるんだよ。先妻が来た、と言って……」
(ナンダ、ゴチソウサマ)
「それでも時々来るんだねえ、書斎の窓に。可哀そうだから中に入れてやって、ひと月の半分くらいは猫と一緒に寝るよ」

 ああ、ええ話や。

 森茉莉については、当然、部屋の汚さと、その汚い部屋から美しい世界を醸成し続けた驚異、みたいなものが書かれてた。森茉莉について書かれたものはだいたいいつもそんな感じだけど、この著者がすごいのは、森茉莉の引っ越しを手伝ったり(実際に運び出し作業をしてやったらしい。当時森茉莉70歳)、彼女のために部屋探しをしてやったりしてるってことだ。まさに生き証人。

 下北沢にあった倉運荘というボロアパートの一階に森茉莉は22年も住んでいたが、とうとう老朽建物として退去命令が出、引っ越さなければならなくなった。

 必要と言われたアームチェアが僅かにのぞいている。上積みの物をはねのけはねのけ、四分通り見えて来たところで手をかけてもビクともしない。その筈だ。脚元のゴミはすでに土と化し、竹製の脚がガッシリと根を下ろしている。
 (略)
 「もう一つある筈よ」それは夢の島に埋もれたか崩壊したか、影も形もない。
 「洋タンスもよ。黒い洋タンス」これも無い。それらの家具は、茉莉さんの頭の中でだけ存在を主張している。

 好みの写真を、イメージ喚起の媒体とする茉莉さんは、雑誌新聞類を積み重ね、切り抜き、創造の火種とする。J.C.ブリアリ、A.ドロン、P.オトゥールなどの写真が目下茉莉さんの心をかき立てているが、それ以前のもろもろが、養分を吸われたあと復活の可能性もこめて積まれたまま、床下の湿気と直結して清浄な土と化した。日当たりも風通しも悪い洞窟のような部屋の中で……。

 茉莉さんは時々姿を消す。百メートル先の新居の新しいベッドにひっくり返っているらしい。たまたま戻って来て、廃品回収の人の手にしたものを目ざとく見た。
「アラ、それ、大変々々、大事なものよ」
「これ?」
「パッパの日記なの。明治四十二年の」

 それは博物館に預けるべきでは……。

 巻末は円地文子になってるけど、これはちょっとしんどかった。円地文子って一度も読んだことないし、源氏物語の口語訳したことくらいしか知らなかったけど、これ読んだ限りではかなりゲロゲロだ。ある意味森茉莉と似た面もあるようだけど、森茉莉は許せても、これはイヤだなあ。女ってイヤ、て感じ。娘の恋人や愛人に惚れるあたり、なんとなく気持ちがわからんでもないだけにイヤだ。
 「ぼくがこの家に来るまで、若い男を直接知ることなんて無かったんだから・・・作品で分かりますよ。老人でない、生きのいい男を書けるようになったのは、ぼくが来てからです」なんて編集者に言う娘婿も、わけわからん。そいで「娘の相手となる二人の男(略)に対し、母親のほうが惹かれ、ままにならない肉体を離れた心だけが浮遊して男と通い合う」なんて小説を書いてるんだよ。いくら源氏物語が好きかしらんけど、これは気持ち悪いなあ。読んでもないのに悪口言って悪いけど。

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