花猫がゆく

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韓国語・朝鮮語・ハングル語?

 ここ10年ほどで韓国に関する報道は驚くほど増えた。現在10代や20代はじめの人たちはこの状態が普通だと思っていて、韓国への偏見がほとんどなかったりする。というか、なさすぎて困るくらいだ。もしかして、ただのバカなんじゃないか?と思うときもある。

 ほんの10年ほど前まで韓国に関する話題はいつもタブーの匂いを帯びていた。報道されるのは重い話題ばかりで、現在のように韓国の文化的側面に触れることはほとんどなかったし、ましてゴールデンタイムの特集番組に登場することなどあり得なかった。明らかに「蔑視」はあったのである。それが、いきなり変わった。無気味なくらいにいきなり変わった。それに伴って人々の韓国に対する感覚もいきなり変わった。日本人はテレビから流れる情報を空気のように呼吸して生きている。戦前軍国主義は教育によって日本人を変えたが、今それをやろうとするとテレビを使うのが一番効果的だろう。

 ひとつのターニングポイントは、NHK語学講座でとうとう「ハングル」を採用したことだろう。「韓国語会話」でもなく「朝鮮語会話」でもなく「ハングル講座」である。NHK語学番組一覧を見ると、英語以外はすべて「○○語会話」という表記なのに、韓国語だけが「アンニョンハシムニカ〜ハングル講座〜」なのが異様な感じがする。

 この表記に関してはNHK内で相当議論があったらしい。当然だろう。「韓国語」と言っても「朝鮮語」と言っても語弊がある。もちろんこれは朝鮮半島の言葉なのだし、もともとは南北合わせて朝鮮だったのだから本当のことを言えば「朝鮮語」が正しいのだろう。だが韓国では全員が自分の言葉を「韓国語」と呼んでいる(もちろん「我々の言葉」という意味の「ウリマル」という呼び方が最も多いのだけど)。いまさら「朝鮮語」はないだろう。ちなみに日本の国立の外国語大学の専攻名は「朝鮮語」である。これは歴史もあることだし仕方ないだろう。

 いずれにしろ、NHKが韓国語を語学講座に採用したことが、メディア一斉右向け右になった、ひとつのきっかけにはなっていると思う。そしてここで「ハングル講座」という表記をしたことも画期的なことだった。人々がみんな韓国語を「ハングル」と呼び出したのだ。

 ハングルとは韓国・朝鮮語そのもののことではない。あの○とか棒で表記する記号みたいな書き文字のことだ。もともと朝鮮では日本と同様、文書はすべて漢文だった。固有の朝鮮語の書き文字というのはなかったのである。ハングルができたのは15世紀、名君の誉れ高い世宗大王(お札の顔にもなっている)が語学学者に作らせたものだ。しかも当時は「訓民正音」と呼んでいたのであって、「ハングル(大いなる文字)」という呼び方は日本統治時代にできたものだ。その上この言葉は現在の北朝鮮では使わないらしい。「ハングル」の「ハン」が韓国の韓とも読めるからで、かの地では「チョソングル(朝鮮文字)」と言うらしい。

 だがテレビではキャピキャピの若い女が平気で「ハングル語♪」などと言っている。私はそれでいいと思っている。日本人にとってそれが一番ニュートラルで使いやすいのだ。それで韓国・朝鮮語に親しんでいくのなら、それでいいじゃないか。私は一応(?)韓国人なので、基本的には韓国語と呼ぶ。朝鮮籍の、もしくは韓国籍だが朝鮮シンパの在日の人は当然、朝鮮語と呼んでいるだろう。だけど日本人の場合、どっちで呼んでいいかわからないはずだ。そこに登場した便利な「ハングル」という言葉なのだ。

 しかしこの風潮にお怒りの方にも会ったことがある。朝鮮史がご専門の、とあるエライ大学教授のお方だ。ある集まりで話した折、その場には韓国・朝鮮両方の人がいると思ったので、私は会話の中で韓国語のことを「ハングル」と言った。するとその大学教授のお顔がさっと曇り、不愉快そうに「ハングル語という言葉はない」と言われた(私はハングル「語」とは言っていないが…)。
 私が「韓国語も朝鮮語も言いにくいのなら、ニュートラルな言い方として『ハングル』が定着してもいいんじゃないですか?」と言うと、彼は神経質そうな表情をますます歪めて「だめだ」と頑固に首をお振りになった。

 しかし彼の希望はかなえられるべくもなく、テレビではますます「ハングル語」が氾濫している。痛快だ。さすがに知識人(?)は「ハングル語」とは言わないが…。
 NHKの語学講座でも「ハングルで喋ってくださいね」などと言っている。そもそも言葉とは変化していくものだ。もともと書き文字を表す「ハングル」という言葉が日本では韓国・朝鮮語という意味になったとしても、一向に構わないではないか。

 その点、英語はややこしくなくて便利だ。みんな「コリアン」でいいのだから。コリアの語源はもっともっと古い「高麗」なのだから誰も文句は言わない。
 最近では「在日韓国・朝鮮人」という意味で「在日コリアン」ともよく言われるようになった。いっそのこと「コリア語」とでも言ってみたらどうだ?

 だいたい、南北が分裂した時に南が「大韓民国」ではなくて「大朝鮮民国」とかいった国名にしておいてくれれば問題はなかったのだ。そしたら今でも「朝鮮語」で通用していたのに。
 両国の関係は現在著しく緩和されてきたが、当面の間は統一はないだろう。しばらくの間は別の国として関係改善を模索していくものと思われる。しかし万が一(?)統一が実現したとしたら、国名は一体何とするのだろう。「朝鮮」という呼称はあまりにも北朝鮮を連想させるので難しいだろう。あの見栄っ張りな国民のこと、どっちも譲らないに違いない。
 私としては間をとって「大朝鮮国」などいいと思うのだがどうだろうか。


(2007年4月追記)
 この文章を書いてから、韓流ブームの嵐吹き荒れ、こんなうじうじしたイデオロギーをすっ飛ばして韓国語を勉強する人が激増した(と思う)。なんだかよくわからないが、これでいいんじゃないかと思う。

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