花猫がゆく

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ケンチャナヨ!

●グランドピアノを運ぶ男たち

 「ケンチャナヨ」は韓国人の国民性をあらわすことばだと言われる。英語で言う"no problem"とか"never mind"といった意味なのだが、韓国人はこの「ケンチャナヨ」を実によく使う。ほんとに彼らは何かにつけ「おおざっぱ」なのだ。橋が落ちても百貨店が崩落しても、「ああ、やっぱりなあ」と思ってしまうのである。

 ソウルはほとんど歩いていないので知らないが、テグの歩道はガタガタだった。ブロックとブロックの間が山脈のように盛り上がり、隙間に土が見えている。日本ではあり得ないことだ。

 ある日、大おば様の屋敷に肉体労働者風の男が3人やってきた。何をするのかと思えば、孫娘のチミニの部屋からピアノを運び出すのだという。

 前に書いたように、大おば様の娘のミナは職業ピアニストである。彼女は独身だが、姪たちが小さかったときにピアノを教えてやっていた。先だって結婚式を挙げた姪がピアノを弾くのも彼女が教えてやったからだ。

 この家にあるピアノはミナがチミニにやったものらしい。チミニは何と言っても大おば様の「長男の子供」であるから、そういう特別扱いも当然といえる。が、チミニはピアノを大して弾くこともなく、使われないピアノはどこかに寄付されることになった、ということらしい。

 大おば様の屋敷は3階建てで、1階は拳法の道場として人に貸している。2階は住居で3階にチミニの部屋がある。3人の男はどかどかと3階に上がり、作業を始めた。

 普通日本で家庭にあるピアノといえばほとんどがアップライトピアノだろう。当然ここでも運び出されるのは箱形のアップライトだと思っていた。が、しばらくして階段を降りてきたピアノを見ると、何とそれはグランドピアノだった。日本で子供用にグランドピアノがある家などまずないだろう。ミナおばさんの大きな贈り物。それにもかかわらずピアノに見向きもしなかった現代っ子のチミニ。ああ。

 しかし階段はそう広くはない。巨体のグランドピアノが果たして通るのか?と思うが、いま現在部屋にあるということは、一度はこの道を通ったはずなのだ。

 男達は口々に大声で合図を出しながら、少しずつ階段を降りてくる。重量級のグランドピアノは横向けに立てられて、1段ずつ降りてはくるのだが、その度にゴン、ゴンと大きな音をたてている。一緒にピアノ線がピンと音をたてる。繊細なピアノに対してこんな扱いで果たしていいのだろうか?きっと韓国ではこれでいいんだろうなあ、などと思っていると、ピアノの横っ腹が階段の天井の出っ張りに引っかかった。ここを抜けるのは相当きつそうだ。それを男達は半ば強引に引きずりおろした。ピアノは可哀相にガーッと音を立てて天井を擦りながら階段をすべり降りていった…。

 日本ではピアノを運ぶには専門の業者がいる。彼らは専門家だったのだろうか?制服も着ておらず、Tシャツにタオルを首からぶら下げて、汗をふきふき運んでいたが…。
 ピアノは屋根のないトラックに乗せられ、男がひとり荷台の後ろに乗ってピアノを支えながら走り去っていった。

 走り去るトラックを見ながら、あまりの乱暴さに唖然としている私に、母の一言。
 「韓国ではなあ、仕事が雑やねん」

 日本と韓国が合同で事業をする場合、いろんな面でかみ合わなくて大変苦労するらしい。当然だよなあ。

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