花猫がゆく

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銭湯へゆく

風呂は週一回

 韓国人はあまり風呂に入らない。空気が乾燥してるからあまり体が汚れないからだそうだ。1週間くらい平気で風呂に入らず、そのあと銭湯へ行って何時間も風呂に入り、垢すりで1週間分の垢をこそげ落としてサッパリし、また1週間風呂に入らないらしい。

 大おば様の家には風呂があったが、トイレや洗面台や洗濯機と一緒になっていて、かなり使いにくい。大おば様はこの風呂場を使うことは全くないようで、もっぱら「週に一度の銭湯」専門であった。家風呂を使うのは嫁のオンニと孫のチミニで、特に大学生のチミニは毎日シャワーを使っているようだった。要するに「週一風呂」は年寄りの習慣で、若い子は日本と同じように清潔好きなのだろう。

 で、私も一度銭湯にお供した。というか、勝手もわからないので否応もなく大おば様と母に連れていかれたのだ。銭湯は大おば様宅から徒歩5分のところにあるビルの3階。日本のように「番台」はなく、入り口の手前に料金を払う窓口がある。料金は2800ウォン。韓国にしてはけっこう高い。日本と同じくらいじゃない?

垢すりの情景

 浴場の中は日本とほぼ変わらなかったが(ただしけっこう汚い)、奥まったところに寝台のようなものが3つくらい並んでいる。その上にオバチャン達がマグロのように寝転がっており、下着を着た数人のオバチャンがマッサージしていた。これが噂の「垢すり」かあ、こんな普通の銭湯でもあるんだなーと興味深く眺める。

 寝台の上にブヨッと横たわっているオバチャンは、すでにたっぷりお湯につかったあとで、ゆでダコ状態。もちろん全裸である。垢すり役のオバチャン(昔風に言うと、三助?)は、黒いブラジャーとショーツをつけている。ショーツといってもへそまで隠れるようなもので、それが風呂場だから当然濡れてだぼっと体にまとわりついている。しかもその黒いショーツからお腹の肉がはみ出している。風俗の「韓国エステ」みたいのを想像されてる方、決してそんな美しいものではありません。こんな地方都市の市井の銭湯だからかもしれないけど、めちゃめちゃ泥臭い。お客さんもぶよぶよしてるけど、垢すり嬢のオバチャンもぶよぶよ。

 とりあえず黒い下着はやめてくれ〜と思ったが、よく考えてみると、淡色の下着では濡れたときに「写ってしまう」という職業的気遣いがあるのだろうと気がついた。

 「韓国の女性はみんなスマートで美しい」って言ったのは誰だ?それが嘘だということは銭湯へいけばわかる。みんなぶよぶよしてる。もしかして若くて美しい女性はこういうところには来ないだけかもしれないけど、それにしても日本の銭湯に行った時に比べても、かなりぶよぶよ度は高い。

 ぶよぶよと言うよりコロコロと言った方がいい大おば様も、垢すりをすませて寝台で寝ている。たぶん、本当に眠っている。母のほうはといえば、別室のサウナで汗を流しては水風呂に入ったり、打たせ湯を肩に当てたりして、すっかりエンジョイしている。私はサウナが苦手だし、まさか垢すりする度胸もないので、することもなく湯船でぼんやりしていると、母がやってきて「お前、先に帰れ。私らゆっくりしていくから」と言う。ええ?まだゆっくりするの?もうゆうに1時間以上経ってるのに。

美への情熱

 銭湯の値段が高い理由がわかった。サウナも垢すりもタダだし、客はこうしてゆっくりと時間をつぶし、何時間も風呂場で過ごして身も心もサッパリする。モトは取れるってもんだ。
 加えて思うのは、歳を取っても衰えない韓国女性の美容に対する情熱だ。体はぶよっとしてるが、美容にはこれだけエネルギーを使ってるんだなあと感心する。

 しかもこの美容というのが、何と言ったらいいのか、日本なら「見られて美しい」という、男や他人を通しての美を意味するのだろうが、こちらではもっと自己満足的な、というのか、オートエロティックというのか(そんなええもんか)そういう感じがすごくするのだ。服装も腹の肉も気にしてないようなオバチャンがこんなに体を磨くことに精を出すなんて、考えてみれば奇妙なことだ。韓国女性には「モメ・チョッタ(体にいい)」の精神が骨の髄まで染みこんでいるのだろう。

 でも確かに韓国人は肌がきれいだ。「みんなスマート」とか「みんな美人」とかはかなり怪しいと思うが、肌がきれいなのは確か。これだけの努力のたまものだろうか。でも女だけでなく男も肌がきれいなんだよな。やはり唐辛子のせいか?

 1人で先に帰るために脱衣場に出ると(というか、最初は外で待っていようと思ってたんだけど、いくら待っても2人は出てこないので、結局先に帰ったのだ)垢すり嬢のオバチャンが休憩していた。よれよれに濡れた黒のブラとショーツで半跏思惟像菩薩よろしく足を組み、タバコを吸っていた。ホントに泥臭い。えらいとこに来てしまったなー、と思う。

 しばらくして垢すり嬢のオバチャンは仕事に戻り、新しい客のおばあさんが脱衣所に入ってきた。私を見ると何だかわからんけどダーッと声をかけてきた。なにか質問しているらしいが、さっぱりわからない。「韓国語はよくわかりません」と言ってみるが、おばあさんはあまり興味なさそう。こんどは独り言みたいにダーッとしゃべっていた。いやーこの国では他人との境界があまりないんだなあと思う(単に田舎ってこともあるんだろうけど)。

 まあ、正直言って、銭湯はあんまり再び行きたいと思うようなものではなかった。第一汚なかったし。

遠回りして帰ろ

 外に出ると、夕方とはいえまだまだ明るいので、ブラブラ遠回りして帰ることにする。
 アジアの都市はどこでもそうなんだろうけど、街にすごく活気がある。日本も昔はこうだったんだろう。野菜などを売る露天商がいっぱいいて、食料品店は店先でチャプチェ(春雨の炒め物。大好物です)やキムパッを売っている。庶民的な食堂ではオッサンたちが食事をしてるのが見える。

 例えばベトナムとか香港でもそうだけど、食事を食堂や屋台で食べることが普通になってるようで、私はそれがとてもうらやましい。朝食は毎朝近所で中華粥を食べるとか、軽く飲茶をつまむとか、フォーっていうベトナムのうどんは50円くらいで、ファーストフードみたいに食べられてるらしい。

 日本では「家庭の味」みたいのをありがたがる風潮と、外食の徹底した産業化のせいで、そういう庶民的な外食文化ってなくなってしまった。今、安い食事といえば、ファミレスとか吉野屋になるんだろうか?貧乏臭いことこの上ない。それ以外は財布にも服装にも気合い入れて行かなければいけない店ということになる。

 そういえば、韓国で見ないもののひとつが「ひとりで食事する人」。これは想像しにくい。ただ、ある本を読んでいたら、最近ソウルなどではひとりで食事する人も増えているらしく、著者も驚いたと書いていた(昔は考えられなかったらしい)。都市化ってそういうことなのかも。

 話がそれちゃった。吉野屋も好きだけどね。

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